燃えているのか火

いじゃない

2016年01月05日 15:29

 
   「何時からじゃ」
 琴音が、自分で答えた。
   「水戸家に嫁ぐことが決まった翌日で御座います」
   「毎朝、挨拶に来ておったではないか」
   「わらわは、その為にだけ生かされていたので御座います」
   「挨拶が終われば、また牢へ入れられていたのか?」
   「その通りに御座います」
 朱鷺姫が疑問を投げかけた。
   「わたくしが土浦のお城に訪れたとき、わたくしを迎えてくれた琴音姫が居ましたが、ここにおいでの琴音姫さまではありませんでした」
 藩侯は家来を呼び、「琴音を連れて参れ」と、命じた。暫くして家来は藩侯の御前に現れたが、「どこにもおいでになりません」と、報告しようとして漸くその場に居る琴音姫に気付いた。
   「殿、ご冗談を、姫様はここにおいでではありませんか」
 消えてしまったのは、熱があり声が掠れた姫だ。どうやら、この偽者の姫は忍者であったようだ。だが、地下牢に入れられている男たちは忍者ではない。
   「もしや」
 朱鷺姫の脳裏にあることが浮かんだ。今頃、男たちは口封じの為に皆殺しに遭っているのではないだろうか。朱鷺姫は、もう一度藩侯の許しを得て、地下牢に降りてみることにした。
 地下牢に降りるまでもなく、地下から煙が吹き上がってきた。
   「火事だぁ、火事だ、火事だ!」
牢番の一人が、命からがら煙の中か搬屋服務ら出てきて、ばったりと倒れたが、煙を吸っている様子はなかった。
   「もう一人の牢番はどうした」朱鷺姫が倒れた牢番に駆け寄った。
   「地下に倒れています、助けてやってください」
 朱鷺姫は手拭いを近くに有った防火用水に浸すと、自分の口を塞ぎ、姿勢を低くして地下に降りていった。煙はモクモクと上がっているが、火は見えない。どこが元を探したがみつからない。
 牢の前に、もう一人の牢番が倒れている。気を失っているのだと思った朱鷺姫は、牢番起こそうと抱えたが、頭から血を流して事切れていた。脳天を鈍器で殴られたようであった。牢の中の男たちはと見ると、毒を盛られたらしく、尽く口から血を流して死んでいた。
 ある男が息子をおんぶして、川に架かる丸木橋に差し掛かった。背中の子供が恐がって暴れたために子供を川の中に落としてしまった。男は為(な)す術もなく、ただ嘆き悲しんでいると、川の水面に龍神様が現れて男に尋ねた。
   「何を悲しんでおる、どうしたのか話してみよ」
 男は子供を川に落としたことを話した。
   「しばらく待っておれ」 
 言い残すと、龍神様は川の中へ潜っていった。
   「川に落ちた子供は、この金の子供か?」
   「いえいえ、そうではありません」
 再び龍神は川の中へ。
   「川に落ちたそなたの子供は、この銀の子供か?」
   「いえいえ、めっそうも御座いません、私の子供泡菜 食譜は、ただの汚い小僧でございます」 
   「そうか、もう一度探してくる、待っておれ」
 ブクブクブクと川の中へ。 
   「では、この汚い小僧か?」
 龍神の手には男の息子が抱かれていた。
   「あ、はい、その子でございます」